借金王のカストラート
とりあえず先生からは130万円の借金をできた。しかし、かわりに先生の新しい車を「ヤミ」で調達しなければならないという使命も負ってしまった。とりあえずは、瞬間的には事態が好転したので、引越し等の準備のために帰宅の途についた。
うきうきと、信州を離れて神奈川へつくと、除雪剤を洗い流すために洗車に行く。と同時に無造作にまいていたウィンチのワイヤーを巻き直すために操作をしていると、ガキッといやな音がして、ウィンチが動かなくなってしまった。悪い予感がした。いや予感ではない、ほぼ確定である。自動車屋に持っていくと、ウィンチ内の歯車がかけてしまったそうで、修理しなければならないという。ウィンチを搭載している車で事故を起こした場合、ウィンチの歯などに異常があるかもしれないので、必ず検査するべきなのだそうだ。ついでにウィンチのマウントも歪んでおり、フォグランプも破損してしまったので、すべての見積り額を合計すると、計25万ほどとなってしまうのだった。全く3歩行って2歩下がるとはこの事である。ああぁ。本当に引越しできるのか。
編集部の方々のご厚意により、たまりに溜まった仕事をかいくぐりつつ部屋を探しを進める。一応いくつかの希望があって、まず東京都心に1本の電車で出られる事。都内に車で出やすく比較的渋滞の少ない道路である事。東京都内である事。その結果セレクトしていくと、電車は東武伊勢崎線(地下鉄日比谷線直通)、道路は国道4号線(日光街道)、そして場所は東京の最果て、歩いて数分で埼玉県の足立区竹の塚が候補地になった。この場所であると電車を使えば、上野、秋葉原、そしてソフトバンク近くの茅場町まで一本で行けるのである。自動車を使うにしても首都高の入り口が近く、しかもソフトバンクに行く場合でも、都心を通過しなくてよい。
しかし候補地は決まったものの、部屋探しは難航した。手持ちの金などを差し引きした予算と、私が持っている道具一式が非常に多かったからである。借りるとすれば、最低でも3LDKは必要である。現在トランクルームに入れているものも引き上げなければならない。
●収支決済
で、現在の収支を確認すると借金が
・卒業時に先生に30万
・自動車のローン残金230万
・クビ寸前に買っていたバイクのローン40万
・社宅退去費8万
・立て続けに来た車などの税金10数万
・クビと同時に一括納入の保険料15万
・先生に借りた脱サラ資金130万
そして手持ちの金は先生に借りた分を含めて150万円程度。ここから、社宅退去費、保険の一括納入、税金で33万円が上記から相殺される。その他現金の出費は
・引越し業者25万円
で、合計の手持ち額は92万円である。一見ウハウハのようだが世間は甘くない。
ここから、新しい部屋の敷金・礼金・仲介手数料と、駐車場の同等費(併設はほとんどない)、そして先生用の車のヤミ調達と登録を行わなければならない。車はどうやったって、整備を合わせたすべての登録に15万円ほどかかり、車は解体車相当でも5万以下では手に入らないだろう。従って20万円強。という事は残金70万円程度で、当面の生活費と部屋を借りるすべての金をまかなわなければならないという事である。当面の生活費20万とし、駐車場を借りるのに10万円(都内は高いから)、すると残りは40万円。敷金礼金手数料で4ヶ月分とすると・・・ガーン。10万強ぐらいで3LDKなんてあるの?。都内で?
最初からあきらめてはしょうがないので、原稿の合間を縫いつつ部屋探しをするのであるが、神奈川から足立区まで来るのに一苦労で遅々として進まない。そんな時、営業マン時代の先輩から電話があり、車だけは見付かった。
「文月。入ったで」
「○田係長ありがとさんです。で、車は。」
「驚くなよ。クラシックカーや。」
「ク、クラシック?」
「1978年製、走行距離2万キロや」
「あれ、意外に少ないですね。ものは」
「日産チェリーFUや。2ドアクーペやで。」
どんなクラシックカーや。全然人気ないやん。しかしこの際仕方ない。
「で、おいくらですか?」
「お友達価格で5万円でいいわ。」
「ところで、その車オートマなんでしょうね。」
「あほ。この時代オートマなんかあれへんわ。18年前やで。」
マ、マニュアル。先生は50の手習いで免許を取ったため、オートマ限定免許なのだ。しまった!。それを言ってなかったのだ。しかし、この○田係長、面倒見は良いが、裏ではマンションを転がしていたり、ヤのつく職業の人専門の営業マンだったりするので、下手に断ると大変な事になるのである。オートマと敢えて指定しなかった私が悪い。しかたない。ここは一端、ウィンチ回りの修理はさて置き、私のテラノを先生に貸し、チェリーに私が乗ることにする。しかし、借金を抱えながらその車に乗れないとは・・・。
●続・部屋探し
そして社宅退去期限1週間前、やっとの思いで、新しい住まいが決まった。東武伊勢崎線の竹の塚駅徒歩1分である。家賃は11万、間取りは3LDKの70m2である。マンションの2階で、目の前に道路の向かい側にビルはなく南向き。駅から離れていたところを探していたため、気づかなかったのであるが、ある日条件だけを伝えていた不動産屋から連絡があったのである。しかし、駅から離れたところの相場が14〜5万だったので、これは見っけものと思って喜び勇んで入居した。予約していた引越し屋にたのんで、およそ一人分とは思えない4tトラック2台の引越しであった。しかし、まぁ、安いにはそれなりのわけがあったのである。
部屋に入居して、パソコンを使うためにブレーカーの容量を見ると、なんと60Aある。玄関の床には「◎◎フーズ有限会社」とか書いたネームプレートが落ちている。そして入居して程なく、銀行からは督促状が、変な弁護士は来て債権者がどうとか言うし、ヤのつく職業の人が来てドアをどんどんと叩く。そのたびに説明に出るのだが、どうやら安かった理由は、以前ここに事務所を持っていた会社が、倒産して夜逃げしたかららしかった。なるほど安いはずである。
でもとりあえず家賃11万敷金礼金手数料で4ヶ月分取られて残金26万円。駐車場も1kmぐらい離れたところに借りて1.5万円で、諸費用込みで6万円の出費。残金20万円でとりあえず生活はスタートしたのだった。
長期会社を休んでいたのだが、最終の2日だけは、バイクで会社に通勤した。愛しの愛弟子るんるんとインド人に別れを告げ、門をかねたトンネルをくぐり、門番に最終の臨時入門証をかえす。振り替えるとトンネルがポツンと開いた山があるだけで、社屋は見えない。まぁ、6年間つらかったが、勉強になることも多かったな、と思いつつ。その場を後にした。
さて、脱サラも何とかなるもんだ、と思いつつ、計算すると総借金額430万円でのスタートなのであった。いったい、いつこの借金が返せるのか、見当もつかない。
かくして私は、借金王になった。
後日談:
あまりの荷物の多さに借りていたトランクルームは、私に対する保管料の請求を忘れており、なんと2年間24万円分を一括請求してきた。しかしこれは毎月請求するという約束を守っていなかった相手が悪いので、半額に値切るともに、抜打ちで荷物を引き揚げにいったところ、勝手に保管場所を移していた罰で、相模原から足立まで配送させる事に成功した。しかし12万円のマイナス。
先生にテラノを渡し、新しいマイカーになったチェリーを取りに、市役所で臨時ナンバーを借りて神戸へ。さすがに走行距離も少なく、丁寧に乗られていたので、東名高速をリッター15kmを走りきり、無事東京に到着。あらかじめ車庫証明等は取っていたのであるが、ものは試しと軽い点検をして車検場に行くと、何と車検に一発合格。ありがたくもナンバープレートが即座についてしまった。しかも最近は10年超の来るまでも2年車検である。うれしくって、うれしくって、人々が注目する中を走り回っていたら、突然高速道路で発電機がイかれて、修理代にマイナス3万円。
その月は手持ち5万円で暮しましたとさ。
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新しいマイカー、日産CHERRY FU。都内でこの車を見掛けたら、手を振ってくださいね。放置車両じゃないので、石を投げたり落書きしないでね。