世紀末のカストラート
第1回

●ある夜、不幸は突然に
 去年の冬のことだった。ある夜、編集部にオープニングビデオを届けていくと、副編集長の下地さんがこう言った。
「文月さん。うちの編集部でホームページ作ることになったんで、文月さんにお願いします。期限は1週間後ね。これがWEBマスターのIDとパスワード。HTMLエディターもいるでしょう。はいHOTALL95、使ってね。文月さんクリエイターだから、かっこいいの作れますよね。」
 「うっ!。バ・バリバリでっせ。」背中に冷や汗がだらだらと流れる。
 「文字とかスクロールするといいな。NetscapeとInternet Explorer用、両方作ってくださいね。」
 「ええ、もう、これからはJAVAでっから。」何かわからないけど、新聞で覚えた言葉ではったりをかましてみた。
 「おおすごいですね。JAVAですか。楽しみにしてますよ。じゃあ僕取材なんでよろしく。」なんかうまく行ったみたいだ。しかしJAVAってなんだ?。自慢じゃないがこの時点で私は、インターネットのイの字もやっていなかった。さすがにホームページとは何であるか、ぐらいは知っていたが、それをどうやって作るのかは全くわからない。それどころか、どうやったらインターネットとやらに加入できるのか、それさえも知らなかった。対岸の火事と思って手を出さなかった訳ではなく、当時私の住んでいたいた神奈川県の厚木という街は、2.88全盛のこの時代にあって、存在するのはNifty-serveの2400bpsのアクセスポイントだけ、という通信後進地域であった。ゆえにもう少し通信環境が整ってから始めようと思っていたのである。
 下地さんが去った後、呆然としながらもう一人の副編集長、倉嶋千雪姐さんを見ると、たばこを吹かしながら、こちらを見ている。そしてクールに笑ってこう言った。
 「インターネット・・・・。」
 「はい?」
 「できるわよね。ライターだものね。」
 「えぇ、もちろん。」
 ふふんと鼻で笑うと、姐さんは「がんばってね。」と言った。この人には、バレているかもしれない。いやきっとバレている。しかしやらなければならない。ヒー!。
 地獄の1週間の始まりである。

●第1日目すべては闇だった
 まったく持って、語る言葉を持たない。特にこの1週間は、どうやって会社に行ったのか、ほとんど覚えていない。
 まず、会社へ行く前に本を買いに本屋へよった。しかし厚木にはろくな本がなかった。馬鹿でもできますよ、的な本ばっかりで、要求されているだろうクールなホームページ(雑誌の受け売り)なんか、できるわけがない。ついでに本を立ち読みしているうちに、JAVAが何であるかもわかった。これは要するにプログラミング言語じゃないか。1週間でプログラミングなんか、マスターできるかー!。
 バカな頭を抱えながらも、一生懸命考えて、別の雑誌の編集者にナイショで電話する。
 「今度、自分のホームページつくんねんけど、どうしたら上達するんやろ?。」
 「インターネットサーフィンして、気に入ったページがあったら、ソースを表示して盗むんですよ。テクニックを。それの蓄積ですね。」
 「なるほど。インターネットにつなごうと思ったら、どこのプロバイダーがええんやろう。サービスとかいろいろあるやろし。」
 「文月さん、CGやっているんですよね。CGのデータとかホームページで公開するなら、ホームページのスペースが安い方が良いですよね。それだったら、▲▲ネットかな。オプションのハードディスクスペースが安くて1,700円で20MBまで借りられますよ。」
 「ふんふん。それからあの、登録っつうか、しかた、わかる。」
 「あぁ、オンラインサインナップの方法ですか?。確かそれぞれのネットのサインナップ専用の電話番号にかけて、オンラインで登録するんですよ。番号はインターネットの雑誌に書いてありましたよ。えっと、03(xxxx)0000です。文月さん厚木でしたよね。ヨコハマにアクセスポイントが有りますから、そこにつなぐといいですよ。」
 「サンキュー」
 疑われただろうか。超初心者だと疑われただろうか。ばれやしなかっただろうか。DOS/V magazineの編集部にばれやしないだろうか。ビクビクものである。
 さて、登録はオンラインサインナップで行う。他の方法を使うと時間がかかるため、これがベストである。オンラインサインナップは、Nifty-serveやPC-VANのそれと同じで、即時IDが発行になり、30分ほど待つと、即日インターネットにアクセスできるようになるそうである。物理的には。
 ここまで頑張って、この日は寝ることにした。

●第2日目光と闇ができた
 昨日の夜頑張った分寝坊してしまい、昼前に会社に出社する。フレックスタイムをフルに利用し、しかもコアタイムが過ぎれば即帰宅である。私にはライター人生がかかった仕事があるのだ。残業の消化だ、と同僚をけむに巻いておさらばした。とりあえず今日はインターネットに加入するのである。
 まず教えられた電話番号に秀Termを使ってアクセスする。そして必要事項を通知して、IDを取得する。クレジットカードがあれば、即時なので楽である。と同時に、インターネットへのアクセスの仕方、ホームページの追加スペース取得のための説明と、インターネット上でのホームページの開設の仕方を、ファイルにコピーして保存しておく。しかしここにも、根本的なホームページ作成の仕方が、書き記されてはいない。
 でもまぁ、とりあえずインターネットに接続できるのである。ちょっとうれしい。カップラーメンを3分まつように、サインナップから、正規登録までの30分ほどを心待ちに過ごし、時間が過ぎたら、説明の通りに接続を開始した。
 まず、ダイヤルアップネットワークをインストールし、それによって作られたフォルダの中から「接続」を押し、インターネットへの接続のお作法を規定する。この辺は、結構細かく説明されているので、困ることはなかった。特にWindows95は使いやすくできているらしい。そして雑誌の付録に付いてきたInternet Explorer 2.0βをインストールし、インターネットに接続すると、ナント画面が表示された。しかもなんか音が鳴っている。すごいすごい。これがインターネットか(何が?)。とりあえず感心しながら、ジャンプを繰り返し、迷子になりながら、楽しいひとときを過ごす。気に入ったーページのアドレスもソースも控えないままだったので、ぜんぜん参考にならなかったが。
 インターネットにも接続できたし、次はいよいよホームページを作ろうと思ったが、まだ、片付いていない問題点がある。ホームページを作るためのHTMLってどうやるのか。ホームページはどうやってインターネット上で公開するのか。この2点である。ホームページに関しては、いまだ有効な手段がないが、それは後回しにして、とりあえずホームページを開設する方法を理解するために、先ほど取得した、各種説明書を読んでみることにする。
 「ホームページをアップロードするには」ふんふん。「FTPなどのコマンドを使用するため」ふんふん。「基礎的なUNIXのコマンドを知らなければなりません。」なんやそれ!。いきなり難易度が10ぐらいあがったぞ。UNIXというのは効いたことがある。しかしFTPって何だ。しかも、Windows95さえよく分からないのに、今更他の言語を覚えるのか。それってJAVAを1週間でマスターするのと同じじゃないか。チクショー馬鹿にしやがって。この馬鹿にされた悔しさに、さんざん地団太を踏んだのだが、やはりこのままでは始まらないので、とりあえずプロバイダーに「FTPがわかりません。UNIXもわかりません。どうしたら良いですか?」との質問を書いてメールで出す。すると返信メールにはこう記述してあった。「ローカルのニュースグループに、UNIXに関するものが有ります。ここで詳しく討論されていますので、こちらを参照してください。」詳しく書いてあるなら、なぜそれを抜粋して、初期の説明文集に掲載しない!。しかも、Internet Explorer 2.0βでこのNewsとやらを読む方法が分からない。チクショー。呪文みたいなことばかり唱えやがって。このままではどうやってもらちが明かない。辛気臭くはなるもの、仕方無しに昨日の編集者に電話をする。
 「あっはっは。はまってますね。とりあえず個別に質問するより、パソコン通信上のインターネットの会議室を見て見てください。詳しく載ってるはずです。Nifty-serveなら、フォーラムの名称はFINTだったかな。」
 「ありがとう!ありがとう!」そう礼を告げると、Nifty-serveにアクセスして、GO FINTと打ち込んだ。
 「だぁ!これインテルのフォーラムやんけー!」別にインテルに悪気はないが、いまはそれどころじゃない。もう一度問い合わせると、FINETであることが判明。ホームページに関するものを、全件打ち出して読みむさぼる。むさぼっているうちに、いつの間にやら会議室のプリントアウトを握ったまま、ソファの上で眠ってしまった。

●第3日目大地と海ができた
 本日もフレックスである。まったくスチャラカ社員の見本みたいである。FINETの会議室を読破したところ、ホームページのアップロードには、Ws_FTPというソフトが良いことがわかった。GUIで優れていて、UNIXのユの字を知らなくても、簡単にホームページをプロバーダーのホストにアップロードできるそうである(おお、専門的な用語がしゃべれるようになった)。できるはずなのであるが、まだあげるべきホームページはない。会議室を見ていても、基本的なホームページの作成の仕方は皆マスターしているようで、小技やツールの質疑応答が多いのである。余談であるがこの他に、この会議室で仕入れた情報として、GIFファイルというのを扱うのには(なにをどう扱うのかは不明だが)、GIF Construction Setというソフトが良いそうである。特定のラインを超えると、非常に参考になるんだろうな、と思いつつ、頭を抱える。
 そう言えば、下地さんにHTMLエディターとかいうソフトをもらっていたような気がする。どこに行ったのか探して、見つけ、インストールする。それがHOTALL95であった。一応GUIを目指しているのであるが、まだまだ不十分な部分が多い。まぁ、それでも何もないよりは数百倍参考になる。まずこのHOTALL95で何か適当に作り、次に、そのファイルをHTMLファイルとして保存して、エディターで読み込み内容を確認する。するとある程度わかることがあった。JAVAがプログラミング言語といったが、HTMLもごく単純な部類のプログラミング言語なのである。
 たとえば、<HEAD>という文字列は元の文字列に「/」を加えた</HEAD>という文字列と対を成し、ソース上に何らかの影響を及ぼしているらしいのである。そしてWWWブラウザーはこれらのソースを読み込んでコンパイルし、画面に表示している。いや、感覚的にはBASICのように、ソースをそのまま実行しているようなのである。たとえば、基本的なホームページの構造は

<HTML>
<HEAD>
..........
</HEAD>
<BODY>
...........
...........
</BODY>
</HTML>

という構造になる。そして、これらの中に文字や、画像ファイルが挿入されて、ホームページが構成されるのもわかった。しかし、対にならない暗号が存在したり、違う文章にジャンプする暗号は、今一つ理解できない。
 というより、ホームページはこれほどまでに流行っているのに、この暗号をちゃんと取り扱った辞書みたいなものはないのか!?。
 と思っていたら、また気絶したまま朝になっていた。

 一体全体、ホームページは期日どおり立ち上がるのかどうか?。それとも締め切りに厳しい/Vmagで、いきなり締め切りをブッチしてホされるのか?。不安と哀愁を胸に、以下次号!。